侍従の君は、白河の滞在が長くなり

いつまでもこうしているべきではない、比叡山へ帰らなければならないと思いながらも

若君の愛らしい面影を忘れられず、決心がつかずにいた。


月が山の端より顔を出し、あたりを照らし出す。

こらえきれなくなった侍従の君は、再び若君の邸へ赴いた。



再び邸へ

門の前には、いつかの少年が佇んでいた。

「若君は今、いずこにおられますか」

問いかけながら近づくと、扉の影に人の気配がする。


見れば、若君であった。



あしびきの

二人は、互いに語らい寄る。


「あなたさまは、一体どこのどなたでございますか」

若君の問いに、侍従の君が答えた。

「あしびきの・・・と申し上げればおわかりでしょうか※1

いえ、足ではなく、あなたの袖を引いてしまいましたが」


聞いて、若君はわずかに顔をくもらせた。

「大方の山の名は、いずれかと思い定めはいたしますが

親しくしてはいけない間柄のお方なので、恐ろしく存じます」※2



やがて夜も更け

「月は御簾をかかげて見ることこそ格別」

と二人は手に手を取って、邸の中へ入っていった。



逢瀬

あとは、夢かうつつか・・・


心迷いながらも若君は、侍従の君の誘いにまかせて

一夜の交情を遂げたのであった。



(※1「あしびきの(足引の)」は山にかかる枕詞。
山といえば、中世では比叡山を指すため、侍従の君は、自分が比叡山の僧だと伝えている。
物語のタイトル「あしびき」は、この言葉による。

※2若君は奈良の寺院に属しているが、京都の比叡山と奈良の寺院は仲が悪かった。)




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