次の日、侍従の君は再び若君の邸の様子をうかがった。

すると、御簾の内より十四、五歳ばかりの稚児が縁側に立ち出ていた。


これはと思い目をこらすと、姿、立ち居振る舞い、つややかな黒髪が豊かに垂れ下がる様子など

一通りでない、目もさめるばかりのかわいらしさである。



若君2

「このお方こそ、若君にちがいない」

どうにかして話しかけたいと思いつつ、その方法も思いつかない。

が、一途な心を頼りに葦垣の隙間から、ふいと内に忍び込み、若君の前に出た。



御簾

突然、見知らぬ僧が現れたことに驚いた若君は

頬を赤く染めながら、御簾の中へ入りかけた。

それでも、昨夜のことを少年から聞いていたのだろうか

立ち去らずに振り返っている様子が、御簾より透けて見えたので

侍従の君はすかさず


「玉だれの みず知らずとや思ふらむ はやくもかけし心成(なり)けり」
(御簾の中におられるあなたは、見ず知らずの者とお思いでしょうが
私は早くもあなたに心をかけているのです)


と歌を贈った。

すると若君は、聞き終わらないうちに


「おぼつかな いかなる隙に玉だれの 誰か心をかけもそむべき」
(誰がどんな隙間から御簾の中にいる私に心をかけることがあるでしょう、疑わしいことです)


と返歌を詠んだ。


侍従の君は、縁の際まで近づいて、何か言おうとするけれども声にならない。

御簾の中の若君の表情はつれないままで、気まずく感じられたので

仕方なく、その日も帰るほかなかった。




前へ 前へ          次へ 次へ